消えない?!デジタルタトゥーとは?

インターネットの普及は人々の生活に大きな影響を与えました。非常に便利な世の中となりましたが、その一方で、インターネット上に公開した情報は簡単に複製されてしまう恐れがあります。自身がデータを削除しても、その前に誰かがデータを保存していた場合には、インターネット上に流布されてしまう危険性があるのです。自身にとって不利益な情報も半永久的に残ってしまうことが問題視されており、それらの投稿は「デジタルタトゥー」と呼ばれます。

高度に発展した情報化社会では、自身でも気づかないうちに、デジタルタトゥーの加害者・被害者になる危険性をはらんでいます。デジタルタトゥーの加害者・被害者にならないためには何に気をつけるべきなのでしょうか。また、なってしまった場合の対処法や、VPNの利用を含む、被害を予防するためのヒントについても説明します。

■目次
デジタルタトゥーとは?
デジタルタトゥーの危険性は?
デジタルタトゥーが与える影響は?
デジタルタトゥーの種類と事例
デジタルタトゥーの対処方法
EUと日本における「忘れられる権利」
デジタルタトゥーの加害者・被害者に成らないために

デジタルタトゥーとは?

デジタルタトゥーという言葉の起源は、2013年に開催された世界的な講演会「TEDカンファレンス」だと言われています。その壇上で、メキシコ出身の研究者ファン・エンリケス氏がテーマに取り上げたことがきっかけとなり、瞬く間に世の中にも普及しました。

デジタルタトゥーとは、「デジタル」と「タトゥー(入れ墨)」の造語で、一度入れると消すことが難しいタトゥーになぞらえています。インターネット上に出回ったテキスト、画像、動画などは、コピーペーストやスクリーンショット、データダウンロードなどでの複製が可能です。複製されたデータは、SNSなどで簡単に瞬く間に拡散される可能性があり、拡散したデータは完全に消すことが難しく、ネット上には半永久的に情報が残ってしまいます。そのような「消えない」性質をタトゥーにたとえています。

デジタルタトゥーの危険性は?

デジタルタトゥーでもっとも注意すべき点は、データの消去などの自己完結処置だけでは終わらない点です。データを削除すれば、一見するとネット上から懸念を消し去ったように思えます。しかし、悪意を持った他者がスクリーンショットなどでデータを保存し、そこから拡散される危険性があるのです。

また、子どもがネット犯罪に巻き込まれる恐れもあります。警視庁の発表(*1)によると、SNSに起因する犯罪被害にあった児童(18歳未満)の数は、令和4年で1,733名でした。例えば、年齢や性別を偽って子どもと接点を持とうとする、児童ポルノの犯罪者も存在します。メッセージのやり取りから巧みに裸の自撮り画像を送信させ、それがネット上に公開されてしまう事件が起きるなど、未成年の被害も後を絶ちません。

デジタルタトゥーが与える影響は?

デジタルタトゥーは私生活に大きなマイナスの影響を与える危険性があります。例えば、就職や転職などの人生の大きなターニングポイントに、応募先の採用担当者が実名検索し、不利益な情報が残っている場合、それが原因で不採用になる恐れすらあるのです。

また、飲食店などで迷惑行為をはたらく模様を動画で撮影した「迷惑動画」の流出により、本人だけでなく家族や所属企業、学校などの周囲の人たちにも被害が及ぶことがあります。本人が悪ふざけの気持ちで行った迷惑動画が炎上し、住んでいる家や、所属している企業や学校が特定され、大量の苦情電話が殺到することも十分に起こり得るのです。ちょっとした出来心が、取り返しのつかない過ちや被害を生むことを理解しなければなりません。

デジタルタトゥーの種類と事例

デジタルタトゥーの種類と事例について説明します。

デジタルタトゥーの種類

デジタルタトゥーは、大きく4つの種類に分けられます。分類する際の視点は、自分が公開した情報か、他人が公開した情報か、自分に非があるか、ないかです。

【1】自分が公開し、自分に非があるもの
他人への誹謗中傷や、迷惑行為など

【2】自分が公開し、自分に非がないもの
意図せずGPS情報で場所が公開されていたなど

【3】他人が公開し、自分に非があるもの
前科、過去の不祥事など

【4】他人が公開し、自分に非がないもの
リベンジポルノや個人情報の流出など

一言でデジタルタトゥーと言っても、さまざまな性質のものがあることが分かります。

デジタルタトゥーの事例

代表的なデジタルタトゥーの事例を8つ説明します。

デジタルタトゥーの事例

1. 個人情報の漏洩(ろうえい)
名前や生年月日、住所や家族構成、学校や会社等のプライバシーに関する情報の流出は、犯罪に巻き込まれる危険性が高まります。本人が意図せずとも、背景に映った建物や一連の投稿をさかのぼること等で居場所が特定されるケースもあります。個人情報の漏洩(ろうえい)は自身に関することはもちろん、他人の情報の取り扱いにも注意しましょう。

近年、新たに問題として注目されているのが、親世代の子どもに関する投稿です。小さな子どもについて投稿する際には、子ども自身の意思とは関係なく投稿されることが大半です。子どもが大人になった際、親がこれまで投稿してきた情報を消したいと思っても、一度公開した情報を後から完全に消去することは困難を極めるでしょう。このように、子どものプライベートに関する情報を、親が勝手に公開することの是非が問われるようになりました。

2. 誹謗中傷
根拠のない悪口やデマ、人を傷つける攻撃的な内容を投稿することは、投稿する側、投稿された側の双方にとってデジタルタトゥーとなります。投稿する側は、本人には直接言えない内容でも、顔が見えないSNSでは気が大きくなって投稿してしまうこともあるでしょう。自身も大ごとにするつもりはなく、ストレス発散のつもりで投稿した内容が大勢に拡散されてしまう事態にもなりかねません。誹謗中傷の内容は名誉棄損や侮辱罪にあたり、また、投稿を拡散した人も賠償を命じられることがあります。

2020年には、元AKBでタレントの川崎希さんに対し、ネット掲示板に川崎さんと彼女の家族に対する誹謗中傷の書き込みを行った女性2名が侮辱罪で書類送検されました(*2)。警察の取り調べによると、書類送検された女性は『他の人も書いているし大丈夫だろう。バレないだろうと思った』と話したと言います。その後、二人は容疑を認めて深く反省したため、川崎さんは刑事告訴を取り下げました。こちらの件は、刑事告訴が取り下げられましたが、本人は軽い気持ちで書いた誹謗中傷のコメントが誰かを傷つけ、刑事事件として取り扱われることもあるのです。

3. 失言
個人の独り言のような感覚で投稿した内容が、投稿者本人も思ってもみないスピードで拡散され、多くの人から見られて炎上してしまう恐れもあります。状況を理解し、焦って非公開にしても、他の人が保存していた場合は再度投稿され、隠ぺいしようとした事実がむしろ火に油を注ぐ事態につながることもあります。

世界的に有名なTwitterの炎上事件は、2013年に起こった米国人ジャスティン・サッコ氏の投稿です(*3)。米国のインターネット企業「IAC」で広報部長をしていた彼女が、南アフリカへ向かう飛行機に乗る直前、Twitterに「これからアフリカに行きます。エイズにかからないといいな。というのは冗談よ。私は白人だもの!」と投稿。当時、フォロワーは200名に満たないほどだったと言いますが、その内容は、またたく間に拡散され、米、欧、南アフリカを中心した地域から批判が殺到しました。彼女は問題となった投稿を削除し、謝罪を発表しましたが、会社から解雇されました。

4. リベンジポルノ
他人が復讐や嫌がらせ目的で性的な画像や動画を本人に許可なく公開することを「リベンジポルノ」と言います。投稿した画像や動画が拡散されると、被害者が受ける精神的なダメージは計り知れません。警視庁の発表によると、2022年にはリベンジポルノの相談件数は1,728件で6年連続の最多を更新したと言います。被害者の86.5%が女性で、最年少被害者は9歳。20代が42.0%、10代以下が27.5%で約70%を占めました(*4)。2014年には、通称「リベンジポルノ被害防止法」等と呼ばれる「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」が制定されました。罰則は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金となっています。

5. 悪ふざけやいたずら
バズり狙いや多くの人に注目を浴びたいという承認欲求等から、SNSへ度を越えた迷惑行為や犯罪行為を自ら公開する人たちがいます。迷惑動画をTwitterに投稿する「バカッター」や、就業中に行った迷惑行為を指す「バイトテロ」という言葉も存在します。特に2023年以降は、大手回転ずしチェーンの「スシロー」で醤油さしの注ぎ口をなめる迷惑行為など、迷惑動画に関する報道も相次ぎ話題になりました。スシローの件では、運営会社「あきんどスシロー」が迷惑行為を行った少年に対し、約6700万円の損害賠償請求の訴訟を起こす事態となっています。近年、日本で問題となっている迷惑動画を投稿するのは、10代~20代の若年層世代が多いと言われています。

6. 逮捕歴、前科
逮捕されても起訴されない場合は前科がつきませんが、逮捕された時点でニュース媒体によって実名報道され、ネット上で拡散されることがあります。その際に、家の住所や家族構成、通っている学校や会社などのプライバシーに関する情報が特定されてしまう恐れがあるのです。また、なにかのきっかけで過去の前科や不祥事の情報が流出し、時を経て批判の対象となり、炎上することもあります。

7. GPSの位置情報
位置情報を共有するアプリや、SNS投稿時の位置情報の公開設定から、普段の行動範囲が特定され、悪用されるケースもあります。例えば、ネット上で知り合い親しくなった人物とSNSのアカウントを交換するだけでも、GPSの位置情報を画像のメタデータから取得されてしまう恐れがあります。実際に会ったことはないのに、相手に家の場所や学校などが知られる危険性もあるのです。

8. プライベートな音声、動画、テキスト
芸能人の不倫報道などの不祥事でたびたび取り上げられるのが、彼らのプライベートな音声や動画、LINEやTwitterのDMなどのやり取りです。これらは流出の度に大きな問題となります。

デジタルタトゥーの対処方法

ここでは、実際にデジタルタトゥーの被害者になってしまった場合の対処方法を確認します。

①投稿者が削除する
自分が投稿したものは、本人の意思での削除が可能です。しかし、自分の投稿を削除することはできても、他の人がスクリーンショットなどでデータを保存していた場合、その人の手元に残っているデータを完全に削除することは不可能に近いでしょう。また、他人が投稿した自身の内容については、投稿者に削除依頼を行いましょう。しかし、連絡がつかないことや、対応に応じない場合もあります。

②管理人に削除依頼をする
掲示板などでは、コメントを削除できるのは管理人のみという場合もあります。その際は、管理人へ削除依頼をしましょう。ただ、自身が書き込んだ過去の失言に対して、削除依頼をした場合に、削除依頼が露見して「隠ぺいしようとした」と再炎上するリスクもあるので慎重に対処する必要があります。

③警察に届ける
リベンジポルノなどの刑事事件の要素がある場合は警察が動くことも可能です。

④弁護士に相談する
費用はかかりますが、専門知識のある弁護士に依頼する方法もあります。例えば、掲示板へ自身に関する書き込みをされた場合、管理人へ削除依頼を行います。万が一、管理人が応じない場合でも、プロバイダ責任法にのっとってプライバシー違反などで対処することが可能です。

⑤国が設ける窓口に相談する
総務省の委託事業である「違法・有害情報相談センター」では、インターネット上のトラブル対応について、アドバイスや関連情報の提供を行っています。

EUと日本における「忘れられる権利」

デジタルタトゥーはプライバシー侵害を引き起こしているため、救済の必要性があるという問題意識から「忘れられる権利」が提唱され、世界で注目されるようになりました。忘れられる権利とは、検索サイトなどで自身の情報を検索結果として表示できないよう、検索エンジンの運営会社に求める権利のことです。

EUでは、2006年以降に検討・施行され、「削除権」や「消去権」とも呼ばれています。「忘れられる権利」が初めて認められたのは、2011年11月、フランスの女性がGoogleに対して「過去のヌード写真の消去」を請求して勝訴した判決です。

「忘れられる権利」は日本の法律では明文化されていませんが、日本では「プロバイダ責任制限法」に基づいて、ページの削除・非表示といった措置がプロバイダによって適宜取られ、検索エンジンもネット上のプライバシー侵害問題への対策を講じています。

日本で「忘れられる権利」が注目されたのは、2015年のさいたま地方裁判所の決定です(*5)。児童買春・ポルノ禁止法違反罪で罰金50万円の略式命令を受けた男性が、逮捕から3年以上経過しているのに、名前と住所で検索をすると犯罪に関する記事が表示されるため「人格権を侵害されている」として、Google検索から検索結果の削除を求めて仮処分を申し立てました。

これに対し、さいたま地裁はある程度の期間が経過した後は、社会から「忘れられる権利」があると判断し、検索結果から削除するように命令しました。

しかし2016年、東京高裁はさいたま地裁の決定を取り消し、男性の申し立てを却下しました。東京高裁は「罰金を納付してから5年以内の現段階では、いまだ公共性は失われていない」と判断し、また、「忘れられる権利」は「名誉権やプライバシー権に基づく差し止め請求と同じものであり、忘れられる権利として独立して判断する必要がない」と指摘しました。

2017年、最高裁も検索結果の削除を認めない決定をしました(*6)。最高裁は「忘れられる権利」については言及せず、「公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」には削除することができるとし、データの削除は認められなかったものの、一定の規範が示されたことが、当時話題になりました。

上記の判例からも分かるように、「忘れられる権利」においてポイントになるのは、検索エンジンで発信・受領される情報は、個人のものでもありますが、公益に資するものに相当すると判断されるケースがあるということです。検索した結果に特定の情報を表示しないという措置は、情報発信者の「表現の自由」や、情報受領者の「知る権利」、社会的な「公共の利益」を侵害する恐れがあります。

このような理由から「忘れられる権利」は、「表現の自由」や「知る権利」などの既存の権利とのバランスのとり方や、検索結果の情報が「公共の利益」になるかということが議論されています。

デジタルタトゥーの加害者・被害者にならないために

これまで確認したとおり、インターネットの普及により、現代は、誰しもがデジタルタトゥーの加害者・被害者になり得る環境だと言えるでしょう。自分や自分の子どもがデジタルタトゥーの加害者・被害者にならないよう、日頃から注意することが重要です。

①投稿内容に気をつけて、事前に投稿ガイドラインの内容を確認する
自身がSNSなどに投稿する場合は、投稿内容に気をつけましょう。公開範囲を設定している場合でも、スクリーンショットなどで広まってしまう危険性もあります。SNSは公の場であって、個人の空間ではないことを理解することが大切です。

感情的になって出来心で行った投稿が、誰かを大きく傷つけ、自分の人生にも一生つきまとうデジタルタトゥーになる危険性があることを意識しましょう。また、SNSを利用する場合は、事前に投稿ガイドラインを確認することも大切です。

②小さい頃からITリテラシーを養う
一見、デジタルネイティブ世代はIT機器やインターネットを使い慣れているため、危険性も理解していると思われがちですが、そんなことはありません。保護者がネットやSNSを使う際のルールを一緒に考え、自身の投稿内容の影響力や危険性についても伝える必要があります。小さい頃からITリテラシーを養うことが大切です。

③VPNを利用する
VPNを利用することも一つの方法です。VNPを利用することでプライバシーが保護されます。例えば、IPアドレスが変更されるため、位置情報が分からないようになります。そのため、不本意に自宅などの位置情報が流出することを防ぐことが可能です。

④日頃の行いに責任を持つ
日頃から、デジタルタトゥーとなるような、行動や発言をしないようにすることも大切です。自身の言動には責任を持つようにして、勝手に共有されるリスクがあることを心得ましょう。

⑤共有する情報の内容と相手を選ぶ
この人なら大丈夫と思って自身に関する情報を共有した場合、その後に関係性が悪化したり、そもそも最初から相手に悪意があった場合など、情報を悪用されてしまう可能性があります。また、意図せずに誰かに聞いた個人情報を流出させてしまう可能性もあります。誰かに情報を共有する場合、本当に共有して大丈夫な内容か、一度立ち止まって検討するようにしましょう。

出典
1. 警視庁 (https://www.npa.go.jp/publications/statistics/crime/r4_report.pdf)
オリコンニュース (https://www.oricon.co.jp/news/2157967/full/)、サンスポ
(https://www.sanspo.com/article/20200304-QQMTQYWC4NIVXNOAVUENZFQELQ/)
2. AFP BBニュース (https://www.afpbb.com/articles/-/3005530)、ニューズウィーク (https://www.newsweekjapan.jp/watanabe/2015/09/post-6.php)
3. 時事通信 (https://sp.m.jiji.com/article/show/2902907)
4. Yahoo!ニュース(https://news.yahoo.co.jp/byline/tagamiyoshikazu/20160714-00059958)
5. 企業法務ナビ (https://www.corporate-legal.jp/news/2574)

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